語ろう、いのちと平和の大切さ|初等部園長・校長中村博ミャンマー︑シリア︑ウクライナをはじめ世界各地での悲惨な状況から暗うつたる気持ちになります︒侵略︑紛争︑戦争が決して過去のものではないという現実に直面する私たちは︑﹁無力﹂を感じながらも︑あらためて教育を通して平和を願い︑学ぶことを大切にしていきます︒ 個の尊厳を重んじ、 真理と平和を希求する人間に 桐朋学園は︑1947年に公布された教育基本法※1の精神を教育理念にもちます︒ 平和と民主主義を謳う日本国憲法を反映した教育基本法︑その制定に深くかかわったのが︑本学園初代理事長であり校長の務台理作※2でした︒務台は︑その教育基本法を踏まえ︑﹁基本的人権の確立﹂﹁日本民族の 独立﹂﹁世界人類の平和﹂を教育の目標と考えました︒務台の願いは﹁日常生活に即しそれがいくらかでもよくなるという形で進めていく﹂ことでした※3︒ 核兵器の使用さえもがリアルに語られる今︑務台が願った教育を私たちはさらに進めて参らねばなりません︒そのために︑日常生活において﹁異なる存在を受容する寛容﹂﹁対話を重ね自らを省みる柔軟性﹂﹁氾濫する情報を選り分ける判断力﹂などを培います︒そして﹁意見の相違を非暴力で解決する﹂﹁批判的思考を持ち︑表現できる﹂ ことを大切します︒ 桐朋小学校の平和学習 桐朋小学校は︑教科︑総合︑自治を3つの柱として教育活動を行います︒すべての教 育活動を通して︑平和を希求し︑一人ひとりが平和のつくり手として社会に参加できる根っこを育てます︒身近な友だちとの葛藤を解決することや︑世界や日本の平和について積極的に考え合うことなど︑お互いの気持ちや考えを伝え合い︑理解し合う機会を大切にします︒ 6年生では歴史を学びます︒子どもたちが真実を学び︑人間として成長し︑平和で民主的な社会の形成者として育つよう願います︒親子で聞かせていただく東京大空襲の体験談や︑祖父母や親戚らに取材して戦争体験を聞きとるレポート作成は桐朋小学校の伝統となっています︒身近な方から自分たちに向けて直接語られる生の言葉は大きな刺激です︒子どもたち一人ひとりが戦争について︑平和について深く向き合 〈※1〉1947年公布の教育基本法 【施行】昭和二十二年三月三十一日 われらは、さきに、日本国憲法を確定し、 民主的で文化的な国家を建設して、世界 の平和と人類の福祉に貢献しようとする 決意を示した。この理想の実現は、根本 において教育の力にまつべきものである。 われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と 平和を希求する人間の育成を期するとと もに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな 文化の創造をめざす教育を普及徹底し なければならない。 ここに、日本国憲法の精神に則り、教育 の目的を明示して、新しい日本の教育の 基本を確立するため、この法律を制定す る。 (教育の目的) 第一条 教育は、人格の完成をめざし、平和的な 国家及び社会の形成者として、真理と正 義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と 責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身 ともに健康な国民の育成を期して行われ なければならない。 (教育の方針) 第二条 教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆ る場所において実現されなければならな い。この目的を達成するためには、学問 の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的 精神を養い、自他の敬愛と協力によつて、 文化の創造と発展に貢献するように努め なければならない。 〈※2〉務台理作(1890〜1974) 長野県南安曇郡(現・安曇野市)に生まれ る。日本の哲学者であ り教育者。本学園理事 長、校長の他、台北帝国 大学教授、東京文理科 大学(後の東京教育大学)教授、同大学長、 また、文部省教育研究所長、慶應義塾大学 教授などを歴任。さまざまな反戦運動な 2 校長から︒
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