ある生徒の現実と公費助成の取り組み [Ⅱ-153]
先日、本校では、『私たちは私学を選びました』(2017年 私学助成小中学校協議会発行)というパンフレットを配布しました。その内容は、「教育を受ける権利は平等」、「私学助成や私学生への就学援助」は「憲法の心そのもの」、「保護者の素朴な疑問からはじまった50年の歩み」など、とても大切なことが書かれています。5月PTA総会をはじめ、いろいろな機会に学び合いたいと考えます。
日本の私学は、新しい教育を構想、実践した歴史をもちます。教育の公共性と私学における独自性を大切にし、社会的責任を果たしています。桐朋学園の「桐」には、教員養成の総本山ともいうべき大学(東京文理科大学、東京高等師範学校の校章)とともに、戦後の新しい教育のあり方を探究したいという願いがこめられています。そして、「一人ひとりの人格を尊重し、自主性を養い、個性を伸長するという、ヒューマニズムに立つ『人間教育』」(1947年制定 教育基本法の精神)を教育理念に据えています。
ここからは、私学に通う高校生の現実をもとに、人権としての「安心」や「学ぶ権利」と公費助成の大切さを考えてみたいと思います。
大阪の私立高校に通うAさん。この学校には、五年一貫の看護師養成コース(看護科)があります。看護科では3年の高校教育課程と2年の看護専攻科過程を履修し、国家試験に合格することで正看護師の資格を得ることができます。先生によれば、最も少ない学費と時間で正看護師になれることから、経済的に苦しい家庭の生徒が多くいるそうです。また、府の育英会の奨学金を約半数が受給しており、「働いて、金を稼げる資格をとりたい」というのが志望動機になっているそうです。
「私の家庭は母子家庭で生活保護をもらっています。受験の時、私学を受けることを悩みました。 私学はお金がとてもかかって、とても母に迷惑をかけてしまっています。自分の将来のために私学の5年一貫の看護科に一生懸命勉強して合格したのに、お金のことで悩むのは辛いし、母の苦しそうな顔はもう見たくないです。」
「私の家庭は母子家庭で生活保護をもらっています。生活保護をもらっている人が私学に行くなんて…って何度もいろんな人に言われました。でも、母はいろんな制度を調べてきてくれて、お金を用意してくれました。私が私学に行くことで家族みんなに迷惑をかけているなと思うととても胸が痛いです。私はただ勉強をして看護師になりたいだけなのに…。お願いです、税金を無駄に使う知事がたくさんいるなら、私学の学費に充ててください。」
この文は、Aさんが公費助成を訴えるはがきのメッセージとして書いたものです。
Aさんは、修学旅行に行きませんでした。「本当は修学旅行に行きたい。でもそれをお母さんに言うことができない。」修学旅行の費用を保護者が積み立てていることを知っており、参加しなければ、約10万円の積立金が返ってくることもわかっています。家庭の困窮状態を考えるとそれを生活費に充てるべきだと考えていました。先生は、「家庭を背負い、苦しみ、不本意な選択をするAさんを見て、私も泣いた。しかし、Aさんはすぐに、涙を拭き「ありがとう。話してくれて」と言った。こちらのことを気遣っているのだ。私にとってはそれが辛かった。なぜこんなにもこの子が苦しまなければならないのか。子どもが子ども時代を生きることができない現実。彼女は子どもでありながら ″ 大人″なのだ。経済的貧困が学ぶ権利を奪うとはこういうことなのだと改めて思い知らされた。」と言います。
「たんぽぽ」親子でお昼を
「貧困の状態で育つ18歳未満の子の割合が13.9%」(厚労省)など、大きな課題があります。そのような社会状況を学ぶとともに、具体的、現実的な姿(Aさんら)より学び、私たちが改善できる取り組みをすすめていかなくてはならないと考えます。
「たんぽぽ」親子で遊ぶ会に、4月に誕生した赤ちゃんも
Aさんについて、大阪の高校で社会科教諭の中村竜司さんにお話を伺い、実践の記録を『作文と教育』2018年5月号№861(本の泉社)に書いていただきました。