保育で大切にしていることが、その子の未来にどう繋がっていくのか [Ⅱ-180]
今学期も、桐朋幼稚園編『桐の朋(とも)―2018年度2学期まとめ―』を保護者のみなさんに配布しました。「たんぽぽ組2学期『やりたい! いっしょに!』」、「ばら組2学期末を迎えて」、「ゆり組 これまでの歩み」、「3歳・4歳・5歳が共に育つ」、「幼稚園の子どもたちと関わった小学校の先生より」という題名で、3歳の子どもたちの「やりたい」気持ち、「みんなでやるって楽しいなと感じる経験」、「イメージの世界を共有して『ごっこあそび』を楽しめるように」、「『できない』に向き合う」、「『できない、上手にいかない自分も自分なんだ』と本人自身が受け止められる事で、次なる一歩を踏み出そうとするのでは」、「遊びの中で憧れる」、「お兄さん、お姉さんの存在」などを記しました。
共通するのが、3~6歳の仲間とのかかわりで、〇遊びや生活、活動に夢中になって、共に育つこと 〇意見がぶつかり合うことを通して、自分の気持ちをコントロールすること 〇他者に憧れ、自分に自信をもつこと 〇自分が行動主体であるという主体性の感覚を持つこと などを大切にしていることです。
私は、報告を読みながら、「それでは、私たちが保育で大切にしていることが、その子その子の未来にどう繋がっていくのでしょうか」という問いをたててみました。
アメリカ、イギリス、カナダ、ヨーロッパ各国などでは、幼児期から成人になるまでの「長期的な追跡縦断研究」(以下、長期追跡縦断研究)が行われています。データを分析し、幼児期にどのような育ちが成人後に繋がるのか、子どもと保育、保育政策に何が必要か、その効果の大きさなどを明らかにしようとしています。
今後日本でも、東京大学「発達保育実践政策学センター」が中心(12月、センター長の秋田喜代美教授が桐朋小へ来校されました)となり、研究がすすむことを期待しています。
世界の長期追跡縦断研究について、秋田教授の論をみてみましょう。
「5歳までの幼児教育において培われる自己調整の力や自分が行動主体であるという主体性の感覚が、さまざまな教科や領域の内容についての知識を超えて、生涯にわたる人生後半の生活につながる予測因となること、そしてそれは認知的能力の高さとは独立に影響を及ぼすものであることが明らかにされてきている。つまり、対人関係において自己調整能力や情緒的安定性、意欲や自信をもって行動できる力、そしてスムーズにコミュニケーションをとり、人とうまくやっていける力が、いわゆる知的な能力とは別な力として生涯において重要」
「幼児期の教育において、いわゆる知的な学習だけではなく、他者とともにくらし遊ぶことを通して培われる社会的スキルや、同年代との関わりから学ぶ自分の感情を調整する力やストレスをマネジメントする力が、生涯にわたって重要な働きをすることが欧米での長期縦断研究から明らかにされつつある」(『あらゆる学問は保育につながる―発達保育実践政策学の挑戦』秋田喜代美監修、東京大学出版)
秋田教授が述べられた「幼児期の教育」の中身は、私たちが保育で大切にしていることと重なります。幼児期に、「自己調整の力や自分が行動主体であるという主体性の感覚」を育てる、「対人関係において自己調整能力や情緒的安定性、意欲や自信をもって行動できる力、そしてスムーズにコミュニケーションをとり、人とうまくやっていける力」を育てることを大切にしています。その育ちが、「生涯にわたって重要な働きをする」と検証されることを願っています。今後も長期追跡縦断研究に着目し、検討をすすめます。
年齢を重ね、同窓生と話す機会が増えました。桐朋幼稚園の思い出として、「昔とかわらない自然環境ですね。」、「夢中になって遊んだ。楽しかったし、充実していました。」「どうしたいかを自分で考え、決めて行動することが培われたと思います。」、「卒業後も友だちに相談したり、繋がっています。」などと聴きます。共通するのが、自分の人生を主人公として歩んでいることと、その根っこが園で育まれていることです。このような声を集め、分析していくことで、桐朋における長期追跡縦断研究となるかもしれません。