2018.2.23

コラム

初等部の道徳性を育てる教育について [Ⅱ-146]

 2015年、学校教育法施行規則が改定され、特設道徳が特別の教科になりました。2018年度より、道徳科が実施されます。
 初等部(桐朋幼稚園、桐朋小学校)では、道徳を大切に考え、道徳性を育てる教育を丁寧に行っていきます。
 
 初等部では、桐朋学園の教育理念「一人ひとりの人格を尊重し、自主性を養い、個性を伸長するという、ヒューマニズムに立つ『人間教育』」を基本に据え、「教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない」(1947年制定教育基本法。桐朋の初代校長は、東京文理科大学学長の務台理作氏。務台氏は、高名な哲学者であり、教育刷新委員会の中心メンバーとして教育基本法に深く関わりました)という精神を大切に、すべての教育活動の中で道徳性を育ててきました。 
 2018年度以降、以下の点を大切にしていきます。

(1) 道徳を大切に考え、道徳性を育てる教育を丁寧に行っていきます
 子どもたちは、自分にかかわる事柄について、自分の判断で決定する権利を成長過程で獲得していく主体です。その年齢なりの知的判断力をはたらかせて、道徳的な価値を選べるように援助し、道徳的行為を選びとれるように励まします。
 実生活の中で起きる様々なトラブルなどを大事な機会と考えます。対話を重ね、自分の行動や考えを組み替えていく過程で道徳性は育ちます。関係が組みかわり、学級に自由や人権、思いやりがひろがることを大切にしていきます。
 教科、総合学習において道徳性を育てます。たとえば、歴史学習で「平和」や「人権」などがつくり出された人類の共同性を発展させてきた事実(道徳性の根幹)を学びます。そして、私たち自身が子どもたちといっしょに人類の共同性を発展させていきたいと考えます。

(2)道徳性を育てる教育の内容
① 人権を中心に考えます
 子どもの権利条約、児童憲章、日本国憲法に掲げられた人権を学びます。
 私たち自身が、道徳性の根幹である人類の共同性を発展させる立場にたち、学習、生活や生き方とかかわらせて実践します。
 私たちは、保育、教育を「子どもの権利という側から考えること」を大切にしてきました。別のことばで『原点に子どもを』と述べてきました。その背景には、児童憲章(1946年)の「児童は、人として尊ばれる」、「児童は、社会の一員として重んぜられる」、「児童は、よりよい環境のなかで育てられる」、「すべての児童は、心身ともに、健やかにうまれ、育てられ、その生活を保障される」、「すべての児童は、個性と能力に応じて教育され、社会の一員としての責任を自主的に果たすように、みちびかれる」という考えが根本にあります。
 日本国憲法や子どもの権利条約で掲げられている諸権利を大切に学びます。子どもの権利条約に掲げられている市民的諸権利として、「表現の自由」(13条)、「思想、良心、信教の自由」(14条)、「結社、集会の自由」(15条)、「プライバシーの保護」(16条)、「マスメディアへのアクセス」(17条)などがあります。積極的な大人社会への参加の保障として、「意見の表明」権(12条)、「休息、余暇、遊び・文化的生活、芸術」への参加の権利(31条)などがあります。

② 自分たちでルールやモラルをつくっていきます
 一人ひとりの権利を保障することと同時に、コミュニティーの一員として、コミュニティー全体がよくなるために、自分はどういう役割を果たすべきかを考え、行動できることを育みます。みんながどうあれば幸せになるかを考えるような、知性や教養を身につけ、道徳性を育てます。
 生活の中であらわれる矛盾や対立を解決するために、共同的な対話を通じ、子どもたちの道徳性を育てます。具体的な生活場面の中で、ルールや価値を自分たちで創り上げていく経験を重ねることを大事にします。たとえば、新しいクラスになった時、前のクラスのルールや価値観とちがう場合、なぜそれを大切にしているか話し合うことから新たな価値観を自分たちで創りあげます。自治活動では、「みんなの声(=意思表明)で学校(=自分たちのコミュニティー)をつくっていく経験」を重ねています。自分たちの学校を自分たちの意見でつくっていく、その力が自分たちにはある、あるいはその力を獲得していくことを子どもたちと学んでいきます。

③ 自己と他者を理解し、他者とともに生きることを大切にします
 自分とは異なった意見をもつ者と、ともに生きることを学びます。日常の人権感覚をゆさぶり、少数者(障碍者、外国人、LGBTなど)との出会いやかかわりなどを通して、一人ひとりの価値を相互に認め合います。自己と他者の人権を尊重するうえで、承認する、されることは大切です。

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