2018.6.26

学園のつながり ~小学生の「音大」見学~ [Ⅱ-159]

 6月23日(土)、今年も桐朋学園大学音楽学部(以下、音楽大学)の合田先生、学生さんにお世話になり、小学5年生の「音大」見学ができました。本物に触れ、音をいっぱいたのしんだ子どもたちは、たくさんの刺激を受けたようです。このあとの文章は、初等部の音楽科 飯田彩子さんが『桐朋教育』の原稿として「学園のつながり・「音大」見学」をまとめたものです。ぜひみなさんにも読んでいただきたいと思いました。

 

 仙川キャンパスの隅々まで我が物顔に闊歩する小学生だが、毎日目にしながらも唯一未知のエリアがある。それが音楽大学だ。旧館があった二年前までは、ガラス越しの通路でホルンやトロンボーンの練習に励む学生さんの姿が見えてはいたのだが、新しい校舎になりそれもなくなった。

 よく聞かれるのが「音楽大学があるから、桐朋小の音楽の授業でも専門的なことをやっているのでしょう?」というものである。それは全くの勘違いで、子ども達はとてもたくさんの歌を楽しみ、リコーダーをシンプルに演奏している。だからこそ、ぜひすぐお隣の校舎に満ち溢れている、普段は馴染みのない「音楽」「楽器」と触れ合う機会を持ちたいものだと長年考えていた。

 近くて遠い「音大」への道が拓けたのは6年ほど前のこと。高校部長を務めておられる合田先生から「ぜひ来てくださいよ!」との言葉をいただいた。とはいえ小学生の生活と大学の授業時間を合わせるのはなかなか難しい。そこで、土曜参観後の放課後を利用することになった。

 最初は希望者の数名の六年生と伺った。古い校舎の各階の廊下に楽器を鳴らす学生さんがいた。合田先生に連れられて小学生がぞろぞろと歩いていく。クラリネットのお姉さんに出会うと、「練習中ごめんね、小学生に楽器見せてあげて」「リードはどんな風になってるの?」と至近距離で子ども達に覗くように促してくださる。ハープの部屋をノックすると運よく学生さんがいて、ここでも突撃インタビューが開始。「ハープはどのくらいの低い音、高い音を出せるの?」「足元のペダルは、どういう役割?」。子ども達は初めて近くで見る大きな楽器に圧倒された。最後は、少し照れながらも、タラララランと弦を撫でて、うっとりしていたのが印象的だった。

 以降、希望者との訪問が数回続いたのだが、貴重な経験をその後の音楽室での授業にも活用したいという願いから、3年前より授業の一環と位置付けて学年単位で訪問している。

 『全員で』というのは実は少しプレッシャーがあった。というのも、「そんなの興味ないよ」と反発する小学生もいるのではないか? 集中が続かないのではないか? という不安があったからだ。その上、土曜参観の緊張感から解放された子ども達である。高学年玄関で整列して出発する前に、口を酸っぱくして言い聞かせた。これは、音楽の授業である。すぐそこだけれど、大学という別の場所にお邪魔するのである。大学生の貴重な勉強の間をみんなのために割いてくださるのだ・・・等々。しかし、たった二分歩くだけだが、『毎日見ているけれどよく知らない場所に行く』というのは、思いのほか良い緊張感があったようで、普段やんちゃな子ども達も集中して参加することが出来ていた。

 2016年度は、工事の関係で校舎内をめぐることは難しく、管・打楽器のグループ発表会にお邪魔させていただいた。学生さんの他、それぞれをご指導される先生方も一同に会して、少し緊張感のあるステージ。子ども達も「なにがはじまるのだろう?」身構えていたところ、最初にトライアングルなど身近な楽器が登場し、意表をつかれた様子。とはいえ、子ども達が普段鳴らすのと同じと楽器とは思えぬ、様々な技法や音の重ね方を目の当たりにして、一気に高揚した表情になった。その後に続く正統的(?)な五重奏の発表も、なにかを発見しよう、感じよう、という姿勢が感じられた。子ども達の感想からは、楽器そのものの構造や奏法にとどまらず、実際に演奏する姿から「息をあわせる」「ちょうどよく音をまぜる」「チームワーク」などの、音楽を作る大切な場面・要素を感じ取った人も多くいたようだ。

 ○トライアングルだけでいろいろな音が出せてすごいなと思った。

 ○印象にのこったのは、みんなが一緒に吹くところ。すごく息がそろっていました。生で、迫力があった。

 ○ぼくが一番興味をもったのは、トランペットです。楽器すべてがキレイだったけれど、すごく通るような音だったから。

 ○はじめて管楽器の合奏を聞いたけれど、予想した音よりも全体的にとても大きかったことが印象にのこった。

 ○知りたくなったことは、なぜ指揮者がいないのか、ということ。ぼくたちがやっている音楽会では必ず指揮者がいるのに、とても気になった。

 ○ファゴットは、すごく長くて空気を吹くのにすごく肺活量が大変そうだった。吹き込み部分の形が他の楽器とちがっていた。

 ○ホルンは、吹くところ以外に長い管がたくさんあっておどろいた。あと、指のパーツが外せることにも驚いた。重さや構造が知りたい。

 ○みんなと目を合わせて、タイミングを測っていたところが印象にのこった。ちょうどよく音が交ざっていた。

 ○サプライズで、カウボーイの格好でトロンボーンを吹いてくれて、かっこよかった。のばしたり、ちぢめたり、すごく音の場所を覚えるのがむずかしそうだけど、一回吹いてみたい。

○きいたことないような楽器があって、びっくりしたので、もっといろいろ知りたいとおもった。今度は、練習風景も見たい。  

合田先生、学生のみなさん、ありがとうございました

 そして、2017年度はいよいよ新しい校舎のお披露目でもあった。長期間工事の柵に覆われていた分、興味も高まる。五年生の子ども達と校舎に一歩中に足を踏み入れると、木の香りがいっぱいにひろがり、皆思わず「いいにおいだねえ!」「なんか、落ち着く!」。注意事項を守ってのひそひそ声が微笑ましい。ピカピカの校舎を3階までのぼると、管・打楽器のアンサンブルクラスの学生さんたちが、子ども達が楽しみながら聞けるプログラムを用意して待っていてくださった。軽快な曲の合間、楽器の特徴を、時にはクイズ形式にして、興味を引き付けながら話してくれる。

「チューバの管はのばすと何メートルあるでしょう?」(答えは、5~6m)「ホルンは昔、何かの時に必要でした。な~んだ?」(答えは、狩り)

 5年生は直前の授業で、小学校の倉庫にあった古い楽器をいくつか手に取ってはいたが、さすがにファゴットやオーボエとなると初めて目にする人も多く、椅子から身を乗り出すようにして眺めていた。

 ○カスタネット、ただ叩くだけでつまらないじゃん、と思ってたけど、ああやってみんなで合わせてやると、楽しいなあ。

 ○タンバリンもたたき方しだいで音がかわっていておもしろい。

 ○マリンバは、叩く棒の種類によって音が違うことがわかりました。

 ○コントラバスは想像以上に低い音だった。

 ○生で音楽をきいて、おとの響きがいつもとちがってすごかった。こんなにちかくでラッキーだった。

 小学校に学生さんを招くことも考えたのだが、お邪魔することで、より受け身にならずに参加できているように感じている。家庭で演奏会に出かけたり、音楽教室に通っている子どもも少なからずいるが、皆で同じ生の演奏にふれる経験は代えがたい。トライアングル一つをとっても、見学の後の授業で「にやり」と笑って意味ありげにビーターを振ったり、音楽室の椅子をパーカッションに見立ててリズムをとったり、日常の生活が彩られていく実感がある。また、あの校舎の中で学生さんたちが日々音楽と真剣に向き合っているということがわかると、通学路の景色も少し変わって見えるのではないだろうか?

 最後に一番嬉しい感想を紹介する。

○土曜参観の後、いつもは映画を見ながら保護者会が終わるのを待つけど、映画より全然楽しかった!また行きたい! (本稿は、2018年7月教育研究所発行の『桐朋教育』に掲載)

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