2019.3.8

「幼児期、どのようなことを大切に過ごしてほしいと考えられますか?」 [Ⅱ-186] 

 2月、中央線沿線合同相談会に参加しました。ご来場のみなさま、ありがとうございました。ご質問のなかに、

「御校へ入学したいと考えていますが、どんな準備をしたらよいかを教えてください。」「桐朋小学校では、幼児期に、どのようなことを大切に過ごしてほしいと考えられますか。」ということなどがありました。幼児期についての考えをお伝えし、保護者のみなさんといっしょに考え合いたいです。

 初等部ブックレット『一人ひとりの、幸せな子ども時代のために』(2018年)に書いたことをご紹介します。

●乳幼児期から、心が育つための基盤としての「安心感・安全感」、「自分が自分であって大丈夫」という自己肯定感、わくわく、どきどきする心を大切に育みたいです。感受性は認識のもとになり、乳幼児期より情緒や感受性を育むことが人間形成でとても大切だと考えます。

「「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。子どもたちが出あう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情緒や豊かな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです」(R・カーソン『センス・オブ・ワンダー』)

●一生使う一番の人間力として、「考えるのが大好き」「身体を使っていろいろとするのが大好き」「人とかかわってやる方がおもしろい」など、そうした感覚はできるだけ早い時期から育てていきたい。

●子どもにとって「身体が感じている感情を発し、大人にその感情が承認され、安心する」ことが発達のプロセスにおいて重要と言われています。(中略)乳幼児期から、安定した関係で、泣くこと(例えば、不快な感情を伝え、おさまるうえでなくことは必要なことです)、抱かれて安心すること、不快な感情も承認され、安心してその子自身で抱えられるようになることを繰り返し経験することが大切だと考えます。 

●2、3歳の頃は、ことばの獲得をもとにして自分づくりが芽生え、世界を拡げていきます。自分でやりたい、自分の気持ちが通じないと面白くないなど、自我が大きく膨らみます。この時期にじっくりと対象とかかわり、対話し、満足し、自分自身で区切りをつけていくことを大切にします。例えば、人気のブランコでは「もっと乗りたいから交代しない」から「もっと乗りたいけど交代しよう」という子どもの心が見えてきます。心が動く豊かな経験や子ども自身が選びとる力を育てる「間」を保障するような大人のかかわりを大切にします。

 

●人間は、生きものの一つであり、自然の一部です。ですから、私たちの生き方には生きものたちから学ぶところがたくさんあります。子ども時代に、自然とかかわり、出あい、感動、不思議さ、思い通りにいかなさ、心地よさ、よろこびなどを経験し、感じることを大切にしていきたいと考えます。(中略)子どもを自然がもつ多様さや広さ、奥深さにゆだねること、すなわち自然の中で子どもたちを育むことで、自然がもたらしてくれる刺激によって覚醒された身体となります。そこから湧き出てくる生命の輝きからはじまる不思議、もっと知りたい、□□のようになりたいと学び育とうとする意欲など、子どもの育つ力が育まれると考えます。

脳科学の知見によれば、健康に身体を育て、身体中で感動し、身体中で自然のものを吸収していく。そして脳にきちんと情報を伝達し、精神の根底をつくり出していく。その過程が大切で、子どもの心がつくられていきます。

●現在、私たちは、環境、食糧、エネルギー、貧困と格差、紛争やテロなど、たくさんの問題に直面しています。専門家が何とかしてくれるだろうということでは、地球が滅びてしまう可能性があります。戦争を防ぎ、地球上の不平等をなくし、自然と共存していけるかという地球全体の課題に取り組まなくてはなりません。こうした課題に取り組むためには、小さいうちから自分の気持ちや考えを大切にし、他者と交わることを楽しいと感じる子どもたちに育っている必要があります。一人ひとりの豊かな可能世、感受性、発想力、デザイン力などをていねいに社会の力で育てていくことが大切です。

コンピュータが普及し、考えたり、身体を使うことが少ない「便利」な生活に変化するなかで、幼児期より感じることを豊かにし、身体を動かす、考える、自然や人と交わることなどが楽しい、好きだと思える子を意識的に育てる必要があります。

●長い目で子どもの成長を考えると、幼児期の暗記学習や訓練について心配な点があります。内田伸子氏(発達心理学、認知心理学)によれば、「指示待ちになってしまう」、「自分で判断しなければならない状況や課題に直面したとき、おとなの顔色を見て指示を待つような行動がみられる」、「学びへの興味を失う。問題解決力が身につかなくなる」などです。内田氏らの調査では、小学校高学年になった時、自分なりのイメージを描いてこたえようとする力が弱く、成績が悪かったという結果も示されています。自分自身で考えたり、判断したり、興味を持って取り組んだりという力を奪う危険性があることを捉えておく必要があります。 ※写真は、6年生を送る会(上)、小学生と桐朋高校卒業生のカルタ大会(下)

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