2019.7.12

授かった命を活き活きと輝かせるために [Ⅱ-198]

 子どもたち、保護者、保育者の皆でもっとも大切にしたいことは、一人ひとりが授かった命を活き活きと輝かせて生きていく(充実感、たのしみ、夢中で生きる、夢みることなど)ことです。

 幼児期から児童期にかけては、「自分が行動主体であるという主体性の感覚」、「対人関係において自己調整力や情緒安定性」、「意欲や自信をもって行動できる力」などを大切に育んでいきたいです。これらが生涯にわたり自己を支えると考えています。そのことは、諸外国の「長期的な追跡縦断研究」の調査結果が示しています。

 しかし、実際は願い通り、理想通りにはいきません。6月、調布市幼稚園の先生との学習会で野井真吾教授(日本体育大学)の「子どものからだのおかしさとその克服のために」より学び考えたことをご紹介します。

子どものからだに着目、取り組みを考える

 野井教授は、教育生理学、教育発達学、体育学を専門とし、子どものからだにこだわり研究活動を続けています。1978年からほぼ5年に1度行っている「子どものからだの調査」をもとに話してくださいました。その調査は、桐朋にも来てくださった故・正木健雄先生(日本子どもを守る会元会長)らが中心になってはじめ、野井教授らが引き継いできました。

 子どものからだのおかしさについて、保育・教育現場の先生の実感〈「すぐ疲れた」という子〉〈やる気が湧かない子〉〈頑張りすぎの子〉〈眠れない子〉の増加、〈姿勢問題〉などを出し合い、事実調査に移行する研究方法をとっています。実感を大切にし、事実を科学的に明らかにして、有効な取り組みを考えられ、私たちも長年学んできました。

 日本の子どものからだのおかしさが初等部の子どものからだの様子に重なる点があります。

 以下は、野井教授が話したこと、ご著書(『新版 からだの´おかしさ´を科学する すこやすな子どもへ 6つの提案』など多数)に学んだことです。たとえば、

「すぐ疲れた」という子[実感]

 自律神経(からだの調子を整える、からだをコントロールする働き)系の発達不全と不調が見られる[事実調査]。便利で快適すぎる現代の生活が、自律神経への刺激が少ないものにすると考えられる。

 また、大脳前頭葉(やる気、意志、集中力、判断力、コミュニケーション能力などの働きを司る)の発達不全が見られる[事実調査]。自らの生活に満足感や充実感を持てない子どもたちが増え、集中に必要な興奮も気持ちを抑えるのに必要な抑制も育っていない子どもが増えていると考えられる。

やる気が湧かない子[実感]

 低体温傾向の子どもが増えている。体温ピークが遅い時間帯にズレ込んでいる。からだの活動水準が高くなってこない[事実調査]など。その背景に、生活リズムの夜型化、深夜型化があると考えられる。

 原因には、もちろん園、学校生活のありようもあります。

   

 このあとは、園学校で取り組みたい、保護者のみなさんと共有したいたいことです。 ※左上写真…今年はプラムがたくさんとれ、おいしくいただきました。

「光・暗闇・外遊びのススメ」

 日中、外遊びをすればからだがほどよく疲れ、「光」を浴びます。そして、夜はいつもより「暗い」ところで過ごせば、多くのメラトニン(眠りのホルモン。朝や昼に光を浴びると促進、夜に光を浴びると抑制する)が分泌され、「早寝」が実現します。

「ワクワク・ドキドキのススメ」

 前頭葉機能に意識的に働きかけていくこと。人間の発達は「不活発型」から「興奮型」を経て、それに見合う抑制過程も育ち、「活発型」になっていくと考えられています。ところが調査では、その機能の発達が見られず、「不活発型」のまま児童期までを過ごしてしまう子が多くいます。集中に必要な「興奮」「抑制」を育てるためにワクワク・ドキドキする環境が必要です。幼稚園、小学校の遊びや学び、活動、生活では「ワクワク・ドキドキ」を大切にしています。

 感情を発散して遊ぶこと、主体的に自分から遊びたいと思うことで、脳を刺激し、発達を促します。

「「慎重なる回避という予防原則」のススメ」

 学習会後、電磁波、化学物質などから子どもたちを保護していくことについて考えています。野井教授の本にも書かれています。欧州では、携帯電話の使用を制限している国やゲームにやりすぎの警告が記されているということなどが見られます。

 日本では、今夏以降、携帯電話会社は第5世代移動通信システム(5G)の運用を開始し、現在の第4世代移動通信システム(4G)よりも、さらに短時間で大容量のデータを送受信できるようになるそうです。便利で子どもたちの使用も増えるでしょう。システムをかえるため、今までに使われてこなかった28GHz(ギガヘルツ)帯という非常に高い周波数帯を使うこと、通信方式の変化によって被曝量が劇的に増加し、環境や人体に深刻な影響を与えると懸念されています。
 国際的には「予防原則の立場から危険可能性という観点で慎重なる回避を」というスタンスがスタンダードと言われていますが、特に子どもたちには慎重に考えたいです。私たちは利便性を求めすぎているのではないでしょうか。

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