2019.9.9

高校、大学の改革と小学校、中学校の国語教育について[Ⅱ-202]

 これまでに、「高大接続の教育改革」や「高大接続改革と2021年度以降の大学入試」など大きな話題としてあげられています。その内容を小学校でもよく学びたいと思います。特に、高校・大学接続と「国語」改革、2022年度より実施の高校新学習指導要領の内容についてです。斎藤孝明治大学教授が、「これから高校の国語教科書と、学習内容は大きく変わっていきます。ということは、高校に接続する、中学校や小学校の国語教育もいずれは変わっていかざるを得ません。」と、『文學界』2019年9月号で書かれていました。

 『世界』2019年9月号では、「日本文藝家協会(理事長・出久根達郎氏)は、今回の国語改革について『日本の将来にとって大変に重要な問題をはらんだ喫緊の課題』であるとの声明を発表しています。作家で日本ペンクラブ会長を務めたこともある阿刀田高さんも『高校国語から文学の灯が消える』」(阿刀田さんは『文藝春秋』2019年1月号にそのことを書かれています)と懸念を表明」されていたことが取り上げられていました。

 日本文藝家協会が、2019 年 1 月 24 日に出した「高校・大学接続『国語』改革についての声明」(公益社団法人 日本文藝家協会 理事長 出久根達郎さん)を読みました。以下に引用します。

 いま高等学校「国語科」が大きく変わろうとしています。ひとつには、2022 年度から施行される新「学習指導要領」による大幅な改訂が行われます。授業では必修科目が変更され、半分の時間を実用文や資料の扱いにあてることになります。選択科目としては、「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探求」という科目が新設されることになりますが、実質的にはここから2 科目選ぶのが精一杯で、多くの高校が実用的な「論理国語」と「古典探求」を採るのではないか、と目されています。

 これによって実学が重視され小説が軽視される、近代文学を扱う時間が減るなどの危惧を訴える声が、既に多くの作家や有識者からあがっています。近年、国語教育は実用的な力をつけるための内容に変えるべきだという意見が強まり、結果として大学入試問題や教科書から文芸作品が減っていることも事実です。

 それは、もうひとつの大改革、いわゆる「センター試験」が廃止され、代わって「大学入学共通テスト」が 2021 年から実施されることにつながっているからです。大学入試と直結する高校教育は、新たな入試に合わせた「国語」授業に変わらざるをえません。

 一例をあげると、既に 2017年にはこの新しい大学入学共通テストのモデル問題として、これまで全く例のなかったような、生徒会の規約や自治体の広報、駐車場の契約書が問題文として出題されています。あたかも実用文を読み、情報処理の正確さ、速さを競うための設問といった印象も受けます。この点に関しても、複数の識者たちから疑問の声が出されています。

 このように、とくに高校と大学と接続した教育現場でこの数年で起きることはおそらく戦後最大といってもいい大改革であり、日本の将来にとって大変に重要な問題をはらんだ喫緊の課題です。この危惧すべき流れをよりよい方向に修正するため、文芸家・実作者の団体である日本文藝家協会は、この問題に一丸となって取り組んで行くことを表明します。

 やるべきことは、文部科学省が提示するこの新たな国語教育について、作家や教師、教育機関、出版者など現場の担当者、そして各分野の有識者、専門家の知力を総結集することです。そのために、オープンに意見を交わすことのできる公開の場を設けていきます。もとより、たくさんの問題が複層する大きな課題です。単純な二項対立や表層的な水かけ論ではなく、日本語とは何か、文学とは何か、教育とは何かという根本的な問いかけを、未来を見据えて、真摯にすることだと考えます。ぜひ多くの方々に参加していただきたいと思います。 以上  

 先ほどの斎藤教授は、「高校に接続する、中学校や小学校の国語教育もいずれは変わっていかざるを得ません。」と書かれていましたが、小学校でも、今年度実施の全国学力・学習状況調査の内容を読むと、かわってきたとも捉えられます。出題された問題が、これまでは物語文、説明文でしたが、今年度は「公衆電話調べ」(公衆電話の設置年代別グラフ、利用理由調べ表、町の公衆電話設置場所地図)の3つの資料の読み取り、「食べ物の保存方法調べ」(調べたことをノートに書いた記録)、「畳職人へのインタビューの仕方」でした。

 高校・大学接続「国語」改革、2022年度より実施の高校新学習指導要領の内容を検討すること、小学校とのつながりで考えること、そこにはどのような教育を私たちは大切にするのか、文学を学ぶとは人間の発達にとってどのような意味があるかなど、大切な問題があると考えます。

 この間に読んだのは、『世界』2019年9月号 「対談 国語教育崩壊は回避できるか? 小森陽一(東大名誉教授)・紅野謙介(日大教授)」と、『文學界』2019年9月号 特集「文学なき国語教育」が危うい! 北村薫(作家)、紅野謙介(日大教授)、齋藤孝(明大教授)、俵万智(歌人)、千葉雅也(立命大准教)、前川喜平(元官僚)氏らが執筆されたものです。紅野さんは、新書も出版されていました。

 ※ 写真上 3歳クラスの子どもたちの粘土の様子、写真下 8月17日天声人語(朝日新聞朝刊) 

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