2020.9.18

『桐朋教育』52号の発行[Ⅱ-239]

特集は、【『自分たちで創る』 桐朋学園の自治〈座談会〉】。出席者は、桐朋小の島田晶子さん、渡邉春菜さん、桐朋女子中・高の岩田堅太郎さん、はし本剛明さん(漢字表記がどうしてもできませんでした)、桐朋芸術短大の永井由比さん。座談会でたくさん学ばせていただきました。5名の方の発言を紹介します。

各学校の自治で大切にしていること

-失敗を恐れずに自分たちの力でチャレンジしてみてください

「安全上の責任は教員が持ちますが、それ以外の企画・運営などは学生に委ねています。たとえば、数年前のことですが、桐朋祭のパンフレットを作成する際に、印刷会社に発注したのですが、なぜか数千部作るはずが数百部しかできていないということが前日になってわかりました。急遽学生が大勢集まって印刷機で作成し、何とか間に合わせました。これは担当した学生のミスですが、それを学生たちが皆で協力して乗り越えたことに学生の力を感じました。大人になると些細なことでも失敗できないことがありますが、学生ならず失敗も許されます。ですから私はいつも、失敗を恐れずに自分たちの力でチャレンジしてみてください、と言っています。」短大 永井さん

-実現していくことで生徒たちが達成感を味わったり、学ぶことができたりするのではないかと思います

「…近年では生徒たちが出してきたものが職員会議で否決されることが何度かあって、残念に思います。もしかすると教員のほうが失敗を恐れているのではないか、歯止めをかけているのではないかとも思います。たとえば、文化祭は外部からお客様を招くので、学校の広報の場という意味もあって、教員が慎重になってしまうのも仕方ない部分があります。生徒が楽しみにしていることでもあるので、そこのバランスをとるのが大切です。高校二年生が生徒会の中心的な役割を担っていますが、生徒の中には、「どうせ先生たちがダメというだろうから」といって自重してしまう傾向がありました。でも、昨年度の高校二年生はいろいろなアイデアを出してきました。その一つが模擬店をやりたいということでした。(中略)模擬店を安易にやってほしくないのですが、模擬店をやることで学ぶこともたくさんあると思います。それを実現させるためには、いろいろな準備や検証が必要だということもあり、去年は文化祭委員会の中の食堂委員会が中心となって運営していくことになりました。こうして実現できたことは大切で、実現していくことで生徒たちが達成感を味わったり、学ぶことができたりするのではないかと思います。」中高 岩田さん

-やってみて感じたことが生徒にとっても大きかったのではないかと思います

「生徒会活動はやはり生徒が主体だということなので、教員の関わり方としては、まずは生徒の意見を聞いて、こういう問題点についてはどうだろうか、などと生徒が思いつかなかったことをフィードバックして考えてみようと投げかけます。そうして実現可能なことを実現させていくことだと思います。文化祭の模擬店でも、やってみて感じたことが生徒にとっても大きかったのではないかと思います。文化祭には卒業生も大勢来ます。そうした卒業生からもよくやったね、ずいぶんがんばったね、という言葉をもらいました。」中高 はし本さん

幼稚園から大学まである学園の良さを生かした自治のあり方

-たまたま桐朋小学校の卒業生が始めたのですが、去年はそれに高校生が加わってくれてものすごくたくさんの洋服や靴が集まりました

「小学校では、クラスの自治のほかに、委員会活動、団活動といくつかに分かれています。それ以外にも、どれにも属していないボランティアというのもあります。数年前から、洋服を回収してラオスに送るという大学生の活動に協力をしています。たまたま桐朋小学校の卒業生が始めたのですが、去年はそれに高校生が加わってくれてものすごくたくさんの洋服や靴が集まりました。高校の生徒会の委員の人たちが昼休みの時間に走って小学校にやってきました。これだけのものが集まったので、いつ持ってくればいいですか、などと打ち合わせをしました。ただ、それぞれの学校でやったというだけで、一緒に活動するというところまではいきませんでした。もし、一緒に活動できたらどれだけよかったかなと思いました。毎年三月にこれだけのものが集まりましたと手紙を書くのですが、せめてその時に高校生の人たちがどんな風にして集めてくれたのか聞いてみようと考えていました。休校になってしまったのでできませんでした。今後その活動が大きく展開できたらいいなと思っています。」小学校 島田さん

-日常的に上の学校の人たちが何かに打ち込んでいる姿を見ていることは、小学生にとってとても大切なことだと思います

「この学園では、短期大学の学生さんたちが外で稽古をしている姿に小学生が見入っていたり、中学生か高校生のハンドボール部の生徒がすごい球を投げているのを見て、小学生が「すごーい」と声を上げたりしている様子をよく見かけます。日常的に上の学校の人たちが何かに打ち込んでいる姿を見ていることは、小学生にとってとても大切なことだと思います。そういうつながりの中で、いろいろな人がいるんだということを感じ、あこがれを持って成長していくことが、「社会のつくり手」として育っていくという自治の目標の重要な土台になっていると思います。」小学校 渡邉さん

女子部門の各学校で大切にし、部門で共通するもの、今回は「自治」を特集のテーマに据えました。ぜひ全文を読んでほしいです。企画を練り、すすめられた研究所の杉本發さん、渡邉千景さん、ありがとうございます。

 

『桐朋教育』は、1971年より発行(下の写真は1号)。刊行のことばに、「桐朋教育の理念をご理解いただくとともに、より具体的な教育の事例をあげ、できる得る限り、その展開と躍動ぶりを生のまま伝えたい」、「同時に、この新しく生まれた『桐朋教育』が学園活動の一方的な伝達のメディアに止まることなく、むしろ、学園教育に対しての批判の場であってほしいと念願している」と書かれている。座談会では岩田さんが「もしかすると教員のほうが失敗を恐れているのではないか、歯止めをかけているのではないかとも思います」と述べていましたが、日常的に実践の見直しを行い、「人間性を強調し、児童・生徒・学生のそれぞれのもつ可能性を見いだすことに努力してきたし、今日もまた、その精神を体して邁進したい」という教育の願いを現在も引き継いで取り組みたいと思います。

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