「好奇心こそ、学びのエンジン。知を追求するための環境がここに。」[Ⅱ‐273]
9月4日、桐朋中学校へ行ってきました。昨年度6年生だった人たちが、桐朋中学1年生となり、どのように生活や学習、友だちとの関わりなどをつくっているかをお聴きしました。先生方に支えられ、励まされながら、中学校の新しい世界で自分(たち)を変化、成長させようとしている様子を嬉しく思いました。先生方が、一人ひとりをよく見てかかわってくださり、一人ひとりの良さをていねいに伝えてくださり、見方(味方)やかかわりに学ばされました。
中学生の『桐の朋』研究報告(日本史、生物、数学、地理、世界史、化学、物理、家庭など様々な分野のもの)・作品(音楽、美術、技術・情報、書写・書道など)集58号をいただいてきました。中学生は何をどう学んでいるのか。卒業生はどんな研究をしているのか。「〇〇さんは◇◇について研究しているんだ。小学校でも好きだったなあ。研究が深まっている。」など、たのしく読ませていただきました。
園庭でダンゴムシを探しています
卒業生の野鳥観察を中心にした研究では、「野鳥観察を通して、自然の素晴らしさ、大切さ、かけがえのなさを伝えるとともに、生物多様性、環境問題の現在について考えることにしたい。」と、最初に書かれ、小学生時代のことから観察記録が綴られていました。引用させていただきます。
「八ヶ岳には、僕の小学校の寮があり、そこの管理人のT夫妻と親しくなって、小学校の夏休みや、冬に泊まりに行った。この寮には小さな森があり、そこを小学校の時探検したりした。小学校6年生のゴールデンウイークに1週間ほど八ヶ岳に泊まりに行った時、キビタキやオオルリを見、本格的に野鳥を好きになった。またT夫妻は拾った羽を僕にくれた。ヤマドリの尾羽を貰った。その時は、本当に嬉しかった。また、別の時には寮内の小さな池にカワガラスというとても珍しい鳥がいたことがある。僕は毎日頑張って写真を撮ろうとしたが、ある日その小さな池の前の部屋の窓ガラスにぶつかって死んでしまった。こういうことはしょっちゅうあるらしいのだが、やはり珍しい鳥だととても心が痛む。その時僕は泣きながらその羽を採取した。」この人は、小学校時代から野鳥が好きだったことを思い出します。
その後は、さまざまな場所での観察記録と写真がよくまとめられています。そして、全体的な考察では、「環境破壊がすごい勢いで進んでいる」「家の近くでは団地が取り壊され、マンションの建築が進んでいるが、そのために木がすべて切られてしまい、そこを巣にしていた鳥たちが移動した」「多摩川に観察に行ったときには、護岸工事の影響で、猛禽の行動範囲が変わってしまうことを見た。また、東京湾で最も豊かな自然が残る三番瀬にも埋め立て計画がある。もし、この工事が進めば、生態系は壊滅的な影響を受けるだろう。このように、野鳥観察をしていると人間の自己中心主義的な態度に腹が立つ。」などと書かれていました。いっしょに考えていきたいと思いました。
『桐の朋』のはじめに、原口校長先生が「(前略)コロナウイルス感染症の流行により、4・5月は臨時休校。そのため、夏休みが2週間ほどとなった2020年。通常であれば、夏休みを中心に取り組む自由研究を、2学期かけて行うこととなりました。イレギュラーな状況ではありましたが、力作の揃う『桐の朋』ができあがりました。遠出しにくい状況でしたので、日頃から関心を抱いていた内容について探究した作品が多いように思います。/「雲は、空を見上げればほとんど毎日見ることのできる、とても身近な大自然です」/荒木さんと同じように、「身近な大自然」を感じ、研究に励んだ作品をしっかりと精読し、芸術として仕上げた作品をじっくり鑑賞したいと思います。」と書かれていました。中学生の学びの深さに感動します。さらにじっくりと、味わいたいと思います。
桐朋中学校(高校も)は、「好奇心こそ、学びのエンジン。知を追求するための環境がここに。」/「もっと知りたい」、「この先に広がる景色を見てみたい。」/そんな気持ちに応えるための学習環境が、桐朋にはあります。」〔学校案内〕。卒業した人たちの様子を聴いて、また研究報告書を読ませていただいて、初等部も同じ願いを大切にしていきたいと思いました。桐朋学園は、2021年度に創立80年を迎えました。学園全体で、「一人ひとりの人格を尊重し、自主性を養い、個性を伸長する、ヒューマニズムに立つ『人間教育』」(教育理念)を大切にしていこうと思います。
務台理作先生。1946年、教育刷新委員会に所属し、教育基本法制定に尽力。「平和憲法下の新理念に基づく教育基本法制定」を主張。議論では、「平和というものの教育価値を強調」。1947年、学校の教育目標を教育基本法に基づき「自主、敬愛、勤労」と定めた。桐朋学園の理事長及び校長を兼任。