2022.2.10

実践から学び、なぜ大切なのかを問う [Ⅱー287]

「桐朋幼稚園の実践から学び、なぜ大切なのかを問う」を書きます。(1)が1回目の掲載、(2)が2回目(今回)の掲載です。

写真はすべて、先週、今週の幼稚園の様子です。

(1)幼児期にふさわしい育ちとは-「人間関係」に焦点化

「保育指針」の保育の目標に、「子どもが生涯にわたる人間形成にとって極めて重要な時期」で、「(ウ)人との関わりの中で、人に対する愛情と信頼感、そして人権を大切にする心を育てるとともに、自主、自立及び協調の態度を養い、道徳性の芽生えを培うこと。」と書かれています。

幼児期の子どもとかかわって、応答されることによる安心感や信頼感をもとに、自分らしさを育み、自分とは違う他者に対する愛情や信頼感を育んでいくという「人間関係」の根っこを育てる大事な時期と考えます。

  • 桐朋幼稚園の実践に学ぶ

年少の子どもたちは、入園から一人ひとりの「やりたい」を満たしています。2学期後半、やりたい遊びをみつけて夢中になるけれど、友だちとの遊びがとても楽しくなってきます。「この遊びしたい!」と「あの子と遊びたい!」が両方気持ちの中に湧き上がって、不満や葛藤など様々な心の動きを経験します。

『Yちゃんのやりたい、葛藤場面、折り合いをつける経験』(I先生の『桐の葉』文章を引用)を取り上げてみます。

Yちゃん(4歳)は、学校ごっこの先生役がお気に入りです。

「きょうの おべんきょうは、イチョウの はっぱの はなたばづくりですよ。みんな きのところに あつまって。」と言いました。

しかし、その時、小学生役の3人(そのうち一人が保育者)は、新しい砂場の道具『パテ』で、コンクリート塗りに取り組んでいました。「ながく つづく アスファルトの ふちの さいごまで コンクリートを ぬろう」と目標を話し合い、張り切ってはじめたところでした。

今までの「学校ごっこ」でも、「いちょうの葉っぱの花束づくり」は授業として行っていたので、Yちゃんにとっては「また今日もやろう」と見通しを持っていて、子どもたちに声をかけたのです。

「きょうの おべんきょうは、コンクリートを ぬることが いいな。」と、Yちゃんに言ってみると、

「ダメ! きょうも、はなたばを つくります。そんな どろを ぬって、いったい どうするのよ!」Yちゃん(先生)は、コンクリート塗りの遊びに初めて出会ったようで、それを熱心にやった先に一体何があるのかというような現実的な問いをつきつけてきました。

「いやだ いやだ。どうしても きょうは、コンクリートぬりを やりたいよ。いやだ いやだ。」みんなが言ってみると、

「しかたが ないわね。じゃあ、きょうの さいしょの おべんきょうは、この コンクリートの おしごとで いいわ。わたしも いっしょに やってあげる。でも、そのあとの おべんきょうは、イチョウの はっぱの はなたばづくりよ! いいわね。」と、Yちゃん。Yちゃんの懐の深さが表れている語りでした。

 この時、小学生役だったI先生は、次のように述べています。

「『学校ごっこで先生役として遊びたい』、『学校の最初のお勉強はイチョウの花束作りがいい』、『一人で学校ごっこをするのはつまらない』、『生徒役の友達や保育者と一緒に遊びたい』、これらの思いを叶えるために、Yちゃんが葛藤した末に考え出した内容は見事です。

提案を退けられ、違う提案を友だちにされ、葛藤するも、相手の意見を受け入れ、自分も寄り添う姿勢を見せつつ、最後は自分の意見もきちんと伝える。素晴らしい先生パフォーマンスでした。/ところで余談ですが、現実の「学校」はこういった子どもがやりたいことをまず満たしてから、教師提案の学びを行うのは難しい現状でしょう。『学校ごっこ』では、自分たちの学びの場を設定できるのも面白いなと思っています。」

Yちゃんの気持ちも、「生徒役の友達」の子の気持ちも大切です。気持ちの違いが生じることは当たり前で、そのときにどうしていったらよいのか、子どもたちとていねいにやりとりをします。幼児期に、自分と他者は違うことを気づき、他者との関わりにおいて不満や葛藤などの心の動きを経験します。心の揺れを大切に育みながら、他者と折り合いをつける経験をします。

 

(2)「人間関係」で葛藤し、折り合いをつける経験を大切にする 

―なぜ葛藤し、折り合いをつける経験が大事なのか

 これは、大田堯さんの生命の基本的特徴の考えに学んで、幼児期、児童期だけではなく、人生において大切なことだと捉えるようになりました。

大田さんは、「生命個体のその基本的特徴とは、第一に一人ひとりがDNAにみられる配列がちがうことだ。第二に生命は太陽、水、食物、そして地球を含む人々に依存して生きている。生命は「かかわり」のなかにある。他者、他物への依存は生命の根本的特質である。第三に、生命は、誰ともちがう他者とかかわり続けることで、一瞬々々自分を変えて、他者との調整を行いながら、新たな創造力をその人なりに創出する。」(大田堯自撰集成4、藤原書店、2014年)と述べています。

 幼稚園、小学校では、子どもたちと生活している中で起きる様々なトラブルを大切にしています。対話を重ね、自分の考えや行動を組み替えていく過程で育ちます。自分とは異なった意見を持つ人と、ともに生きることを学んでいます。それから、障碍(がい)者、外国人、LGBTなどいろいろな方との出会いやかかわりをつくります。自己と他者を理解し、ともに生きるとはどういうことかを繰り返し学びます。

私たちは、生涯にわたり、他者と関わり、葛藤が生まれて調整を行い、折り合いをつけて自分を変えていきながら生きていることを繰り返します。この生命の基本的特徴から自己を創出し続けることで、自分らしさや他者との共生が育まれていきます。だから、幼児期から葛藤し、折り合いをつける経験が大切だと考えています。

(3)発達の主人公は、子ども

発達は、自分自身の願いによって、外の世界(他者やモノ・コト)と自分自身にはたらきかけ、いろいろなことを取り込みながら新しい自分を創造していく歩みです。ですから、私たちは、子ども自身の心の動きや考えを尊重し、子どもは自分で立ち上がり歩み出すことを大切にしたいのです。この発達のちからがたくましく、豊かになるような生活、遊び、学びをつくりたいです。

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