2022.7.22

過程を豊かに育つ人は、発達の可能性をひろげていく[Ⅱ‐306]

幼児期、児童期に、できる・できないことへ強い囚われを持つ人、大人(他者)からの評価の眼差しに縛られている人がいます。それは、できないことはよくない、だからできないことを見通してやらない姿などにあらわれます。

保育や教育を振り返ると、できることばかりがたくさん評価され、できないことには関心を持たない、そうしたことはないかと考えます。できないことの中にある豊かさ―やろうとする気持ち、自分をわかってほしい気持ち、試行錯誤や失敗、困っていること、褒められない自分を傷つけてしまうなど―をわかろうとしているのか。

こうした課題を、過程を豊かに育むことで乗り越えていきたいと考えます。

7月18日、ゆり組の日。いろいろな活動をしました。大工さんチームがコリントゲームを作成し、コックさんチームがカレーの材料を切ったことを取りあげます。コリントゲームでは、みんなでつくろう! ビー玉が釘に当たってどんなふうに進むのか楽しみ、などの気持ちをあたためて、頭とからだ、釘、金槌、木などの道具、材料を使ってつくります。先生から、からだの使い方や道具について説明を聞いて理解します。金槌で釘を打つ時に、片方の手で釘を持ち、片方の手で釘を真っすぐに打とうとします。真っすぐ打ちたいと思っても、釘は曲がってしまうことがあります。指を打つこともあります。緊張や葛藤が生まれます。金槌のどちら側で打つ方がやりやすいのか、先生の話を聞きましたが、自分なりを試してみます。真っすぐに打てると気持ちいい! いい音が響く。もっと自分はやりたくなるけれど、友だちもやりたいと言う。場所は限られ、一度に全員はできないし、周りの人との距離もとらなくてはならない。順番を待ちます。ようやくでき上がって、実際にビー玉を落とす。落とした先に、笑い顔、泣き顔、怒った顔などのコーナーをつくると、もっと面白そう。どこに入るのかドキドキします。

コックさんチームでは、夕飯のカレーを楽しみに、野菜をみんなで切ります。頭やからだ、包丁やまな板の道具、カレーの材料を使ってつくります。野菜を切る時には、支える手と包丁を持ち動かす手、それぞれの動きを自分で考え、力の入れ具合など調整してやってみます。包丁が怖いという気持ちをもった人もいるでしょう。緊張や葛藤が生まれます。支える手を傷つけないように、慎重に動かします。怖い人は先生に支えてもらい、いっしょに動かすことでできて自信を少し持ったと思います。少し慣れると、包丁を思い通りに動かして、切る大きさも思ったようにできていきます。包丁のトントンの音が心地よく響きます。それから野菜の匂いもしてきます。玉ねぎは目にしみます。全部切れて、時間がたつとカレーのいい匂いがしてきました。口に入れると、とてもおいしく、野菜はみんなで切ったものが入っていて、嬉しく、おいしさが増します。「とってもおいしかったね! ごちそうさま。」

小学校のことも話します。7月14日から、4年生八ヶ岳合宿に行きました。火起こしチームの活動を取り上げます。キャンプファイヤーで使う火をみんなで起こそうと、ワクワクした気持ちで始まりました。道具を使うことのワクワク感と、道具を使いこなせないで試行錯誤や失敗をたくさん経験しました。何回もやるうちに、友だちの良さにも学んで、まっすぐに道具を立てる、自分の姿勢をまっすぐに保つなどします。力の加減をしながら、軸がうまく回るようになるとますます楽しくなります。こげたような匂いがしてきます。煙が出ます。軸の近くは熱くなります。周りの友だちの道具の音、火のにおいもしてきます。ようやく火がついたと喜んでも、大きな火、ずっと燃えた火にはなりません。それを何度も何度も繰り返しました。残念ながらこの方法では大きな火をつくることはできませんでしたが、別の方法で火をつけ、キャンプファイヤーの点火に使いました。

 

年齢が小さい頃は、〇か×か、よいか悪いか、好きか嫌いなどの「二分的思考」と認識が見られます。興味関心、好奇心を持ち、失敗や試行錯誤も含めた豊かな経験が、「中間的世界」「系列化」の思考や認識を育てます。たとえば、コリントゲームの釘が初めはまっすぐ打てなかったけれども、何度もやっていくうちにだんだん真っすぐに打てるようになる。初め怖かった包丁が、少しずつ自由に使えるようになり、自分の考えた大きさに切れるようになる。火は起こせなかったけれども、繰り返しやって、コツを掴み、少し煙が出た。よし、次はもっと回し方を工夫してみよう、(桐朋幼出身の人が、重心などを試行錯誤した手製火起こし器を持って合宿に参加!)などと、過程の経験を豊かに持ち、心を動かします。このようなできる・できないの間を「中間的世界」「系列化」と呼び、それを豊かにしていくことを大切にしています。

幼児期、児童期の人たちから、以前は出来なかったけれどもできるようになった喜びを聴いてきました。できなかったことを何回も練習し、工夫してできるようになった。できなかった自分とだんだんできるようになった自分。自分や他者に対して、前と現在の違いを受けとめられるようになり、自分(他者)の成長をわかる力に結びつきます。また他者に対しても、こういういい側面もあるけれども、よくないと思う面もあるというような多面的な見方ができるようになります。未来についても、変わっていける見通しがもてたりします。

この過程を豊かにして、「中間的世界」「系列化」の思考や認識を育むことが、他者からの評価やまなざしの強さ、「二分的思考」でできないからやらないと諦めてしまうということを乗り越えていくことに繋がると考えます。

過程を豊かに育つ人は、発達の可能性をひろげていきます。

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