2022.12.17

「あのね」~どんなことを大切にしてきたのか。今も大切にしたいことは何か~[Ⅱー324]

毎年発行されている親と子の会話集『あのね』。2022年版に、私も書かせていただきました。書く前に、初期の頃の『あのね』を振り返りました。大場牧夫先生(初等部誕生時の専任教員)が、「子どものことばに耳を傾ける」、「ことばとして言えるかどうかの問題ではなく親と子・先生と子の間にそんなことが言える気持の結びつきがあるということが大切」、「まず「生きたことば」を大切にしたい」などを書いていました。

●1986年度版 「あのね うんとね きょうね …」なかなかスムーズに次のことばがでてこなくて 聞いているほうがもどかしくなるようなことば/ちゃんと聞いてもらえるまで ひつこくつきまとって いい続けることば/ことばではいってないけれど 顔や動きで「あのね…」といっている それもことば

でも なかなか通じにくいものです 子どもは伝えたいのに おとなが受けとめないことが多いからです/親も教師も 子どものことばに耳を傾ける必要があるのです ほんとうに子どもを理解するためにも」

●1987年度版 「小学校一年生の作文に「せんせいあのね…」と書き出すことを大事にする時があります。自分の感じたこと思ったことを文章で表現する始まりの時です。

この「あのね…」は話すことばとしては幼稚園時代に大事なことです。それはただことばとして言えるかどうかの問題ですなく親と子・先生と子の間にそんなことが言える気持の結びつきがあるという大切な事です。

家庭生活での子どものことばや会話の記録はその意味で宝物のように感じます。この子どもたちが青年期に入りはじめる時にあるいは親子の会話がぎくしゃくすることがあるかもしれません。その時になってあわてないために心の結びつきのことばを大事にしていきたいものです。」

●1989年年版 「「ことば」も正確な表現よりも まず「生きたことば」を大切にしたい。それは気持ちの「表わし」であり、イメージの「表わし」であり、子どもなり、その人なりの「表わし」として大事なのだ。「あのね…」は家庭生活での親と子の「生きていることの表わし」だと思う。それが「手書き」によって楽しく伝えられている。」

現在も大切にしたいことです。

―2022年版―

〈子どもより学ぶ〉 子どもの発達について学ぶと、願いや理想を込めて、それを基準に子どもをみてしまうことがあります。そして、できていないことを気にします。また□□が大切と頭で理解して、実際にそうならないことに悩む場合があります。そうした時こそ、子どもと過ごしていて心が動かされたことを思い出します。子どもの不思議さに目をみはる感性だったり、豊かで繊細な感受性、旺盛な好奇心とその気になり行動することなど、ハッとさせられてきました。私は、子どもから感覚や思考の回路をひらかれ、感受性や思想を育てられてきたのだと思います。

〈あせらず、ゆっくり、たっぷり、子ども時代をしっかり過ごそう〉 子どもは、自分でしたい、相手がわかってくれた、不思議に思う気持ちと感動、自分なりのやり方(試行錯誤や失敗も)、関わる楽しさなど、それぞれの年齢で、それぞれの時期に、その時しかできない生活を送り、その時しか味わうことのできない感覚、感情、感受、感動、認識、思考など、たくさんのことを自らの内に育てています。だから《現在、今》が貴いのです。

〈子どものことば、親子の触れ合い〉 子どものことばは、たっぷり《遊び、からだを動かし、心を弾ませ、やすみ、食べ、寝て》育ちます。《安定した人間関係、周囲の協力》などがあり、情緒の発達があって育ちます。《好奇心》《五感の耕し》《実物、実際⇔感覚、感受、感情、思考、認識、理解》とことばの結び合い、《共感》《ことばでわかり合う》などの土台があってこそ豊かになります。

ゆったりとした人と人との信頼と安心感の中で、ことばは子どもの体と心に入っていきます。子どもは自らの五感を働かせて感じ、考え、確かめられるような時間や空間、関わりをもつことによって、ことばを育てます。ぼんやりも、貯えられているものがある貴い時間です。このようにして獲得されることばは、子どもの中で考え(思考)や想像力のもとになっていきます。大人は、「そう。そうなんだ」と相槌を打ちながら、子どもと同じ目線を意識してききたいですね。良いきき手は、良い話し手を育てます。

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