2023.8.31

初等部の『インクルーシブ教育』をつくるための学び合い[Ⅱー356]

8月28日(月)より、教職員全員で2学期の準備をすすめています。2学期、皆さんに会えることを楽しみにしています。

 
高学年玄関の壁画「…この学校の先生・子どもたちが、きっとたいせつに思っているであろうことは、なんとなくわかります。おたがいの愛情や、豊かな思いやりの心は、なにものにもかえがたい宝物です。そんな宝物がいっぱいつまった、花車のような学校のイメージが、みんなにとどくといいなあと思っています」(奥山雄輔先生)

30日(水)は、東京慈恵会医科大学副学長(解剖学講座 教授)、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構副理事長の岡部正隆先生をお招きし、『色覚の多様性とカラーユニバーサルデザイン~色覚が異なる人たちへの配慮と工夫』を学びました。岡部先生は、桐朋小学校出身、1-2年5-6年担任は遠藤精一先生、3-4年担任は森孝一先生、美術の浅井直江先生、保健室の藤尾真由美先生、理科の渡辺泰夫先生、渡辺幸広先生にお世話になったそうです。小学校時代のお話を聞きながら、岡部先生は、好きなことに没頭して、自分は大切にされるかけがえのない存在であると感じてこられたんだと思いました。

岡部先生のご講演内容は、〇「異常と言わない」色覚の呼称について、〇色が見える仕組み、〇色弱の人の色の見え方、〇色弱の人の頻度、〇色弱の人の色覚は劣っているのか、〇色弱の人は何に困るのか、〇カラーユニバーサルデザイン(CUD)、〇学校における配慮と指導、〇家庭での工夫 などでした。

学び、心に残ったことがたくさんあります。「「色覚異常」という言葉は医学用語です。一般社会において使用する必要はありません。」、「「色弱」は感覚の多様性の一つです。」、「色弱者とは、色に配慮されていない社会における情報弱者という意味です。」、「色の見える仕組みーP型・D型色覚の人にはどう見えているの?」では、どのように見えているのかわかりました。

「P型・D型色覚の頻度」は、「男性・日本⇒20人に1人(5%)、6111万人のうち305万人」「女性・日本⇒500人に1人、6359万人のうち13万人」、「P型・D型色覚は40人学級に1人いる」と理解することができます。そして「P型・D型色覚の人の方が見分けるのが得意な色がある」、「社会がP型・D型色覚の人に適応していない」ため、困ることも具体的に理解できました。

そして、「鉛筆の文字に赤字で訂正した場合、「赤」と「黒」は見分けにくいため強調されていることに気がつかないので、赤ではなく朱色に変えよう。採点の赤ペンは朱色に近い太いペンを学校として用意しよう。」カラーユニバーサルデザインとして、「できるだけ多くの人に見分けやすい配色を選ぶ。選ぶためにアブリの活用をする。」「チョークは、駄ストレスeyeチョークがよい」、「色を見分けにくい人にも情報が伝わるようにする。」「グラフ・図表は「色+形の違い」を併用する」、「色の名前を用いたコミュニケーションを可能にする」など、具体的な対応も理解しました。

学校における配慮と指導では、幼稚園、学校は「異なる感覚を持つ人々が協働する社会の実現」を目指すためと言われ、「P型・D型色覚の児童は1クラスに1人いる」と捉えて、「色の見え方が違うことでP型・D型色覚の児童が困ることのないように学習環境・指導方法を配慮する。」ようにしていきます。

岡部先生(上 写真)より学んで、初等部の『インクルーシブ教育』を考えていきます。

『インクルーシブ教育』とは、「多様な子どもたちがいることを前提とし、その多様な子どもたち(排除されやすい子どもたちを含む)の教育を受ける権利を地域の学校で保障するために、教育システムそのものを改革していくプロセス」(2005年、ユネスコ)と考えます。

私たちの保育、教育は、「すべての子どもは多様である」、「多様な子どもたちのニーズに合わせて、教育システムそのものを変えていく必要」(があるが、すぐに変えていくのは難しいこともあります)、「理想に向けて歩むプロセスそのものが『インクルーシブ教育』(教育の枠組み自体をインクルーシブにしていくための議論が欠かせない)」と考え、取り組みます。

ところが、私たちの社会や保育、教育の実際は、「多数者」「多数派」に合わせてつくられていることもたくさんあります。私たちは、「多数者」「多数派」側の集団に属していることで、「労なくして得る優位性」=「特権」を持っていると考えられます。今回の岡部先生の講演からも気づかされました。「配慮を欠いた色使いで不便を強いられる人は多いが、外見上分からないから社会の理解も低い」(東京新聞2002年1月7日「色覚障害者に配慮欠く図解…発表者も損ですよ」)と。        

では、『インクルーシブ教育』を考え、話し合い、つくっていくうえで、初等部、桐朋学園の保育、教育では何ができるのか。4点あげます。

●自らが持っている「特権」に気づく学びをすすめる。「マイノリティ属性の当事者」の声をたくさん聴いて知っていくことをすすめます。

先ほどご紹介した新聞記事で、岡部先生は、「これまで学会の席上などで分かりにくい図解を見ては不満を覚えていた」、「学会参加者の何人かは特定の色の区別ができない。論文を審査する人が図解を理解できないことだってある」、「配慮を欠いた色使いで不便を強いられる人は多いが、外見上分からないから社会の理解も低い」(同上、東京新聞2002年1月7日記事)と述べられています。具体的に知ること、学ぶことをすすめていきます。

●「隠れたカリキュラム」を自覚して見直すことを。

私たちの日々の言動や教育活動そのものが無自覚のうちに差別や偏見をつくり出していないかを考えていきます。

●一人ひとりが異なることを前提にした学級づくり・授業づくりをすすめよう。

今回のご講演では、「色覚は感覚の多様性の一つであり、血液型と同様、様々なタイプがあります。けれども、正常色覚とされる多数派の子どもと、色の見え方が異なるため、色覚の差異を超えて、子どもが同じように学べるようにするには、学校でも工夫や配慮が必要と言えます」ということなどを学びました。

●「構造的な差別」について、子どもたちと共に考えていくことを。

なぜ差別は起こり続けるのか、構造的な差別を断ち切るためにどんなことができるのかを子どもと考えていきます。

 

私たちは、初等部、桐朋学園における『インクルーシブ教育』を考え、話し合い、つくることを目指したいと思います。

 
夏休み、しぜんひろばを専門家にみてもらいました。

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