PTA講演会でお話をさせていただきました [Ⅱー381]
数年ぶりに、PTA講演会の開催。私が話をさせていただくことになり、事前にいただいたテーマは「幸せな子ども時代」でした。当日、テーマとともにいただいた4つの視点(→含む)を中心にお話させていただきました。以下、4つの視点について、レジメに書いたことから。
(1)自主性を大切に → 子どもの好奇心を育みたいが故、親があれこれ提案したり勧めてしまいがち
子どもたちには、好奇心、感動、安心感をもち、活き活きと生きることを願っています。「子どもの好奇心を育みたい」は同じ気持ちです。
「親があれこれ提案したり勧めてしまいがち」については、「やりたいことを見つけるのは子ども自身」であり、「きっかけをつくるのは大人」と考えますので、「あれこれ提案したり勧めて」いくことは良いと思います。ただし、「十回誘って一回反応があればいいかな」くらいの気持ちで。
発達心理学・特別支援教育学を専門とする赤木和重さん(神戸大学)は、「一緒にやってみようと誘いかけ、対話を重ねていくと、子どもも自分の気持ちが見えてくる」と言います。
園学校では、集団の中で「やりたい」気持ちを育むことを大切にしています。子ども集団では「楽しそう」が感染します。目的意識がなくても、突然いいこと思いついた! ということもあります。異年齢集団のなかではやりたいが見つかることが多いようです。
写真左は、5・6年生がしぜんひろばでツリーハウスを作成中。右は放課後、6年生がペーパーナイフづくりをしています。
(2)自己肯定感を育てる → 自分史の話を掘り下げてお聞きしたいと思います
私の考える自己肯定感は、「自分が自分であって大丈夫」(心理臨床家 高垣忠一郎さん)、生きているだけで周りから肯定される感覚です。安心して悩むこと、苦しむことができ、ゆるすことができるのも、自己肯定感です。よいところをほめたり、資質、能力を評価して「自己肯定感」を高めるのとは違います。
6年生の自分史(「あなたを授かる前にママのお腹に赤ちゃんが来てくれたけど、生まれてくることができなかったの。」「私にもきょうだいがいたかもしれないってこと!!」/「パパはね、僕が産まれた時、嬉しくておいおい泣いたらしい。それを聞いていた周りのパパももらい泣き。」…)を取り上げます。親への聞きとり、表現する取り組みを通して、「生きてくれる。そのことのありがたさ、かけがえのない値打ちに気づいてほしい」、「あなたが生きていることはどれほどありがたいか、親は子に伝え、子は気づく」ことなどを願っています。そして取り組みによって、「一人一人の人生を支える力」となる感覚を身につけてほしい、子どもたちに「希望」を育てたいと願います。(発達心理学者 E.H.エリクソン、児童精神科医 佐々木正美さん、幼稚園共同研究者 久保健太さん)
自分史の写真を掲載させていただきました
自己肯定感を高めるための学校での取り組みとして、「その人の中での進歩やがんばりを認める」ことを大切にしています。それは、間違えないことが良いという価値観だけではなくて、その人の中での進歩とか、頑張りとかを認められるような学級の雰囲気づくりを大切にしていく取り組みです。「間違いが生かされる―集団で学ぶことの意味や良さ」も大切にしています。学級では、失敗の中にこそ隠れている学びを大切にするため、恐れず挑戦しようよ、という空気をつくっていきたいと取り組んでいます。
写真は、4年生八ヶ岳合宿で火起こし体験。試行錯誤、失敗もします。
(3)子どもの権利条約について → どこまで子どもを尊重するべきか、ボーダーラインに悩んでいます
子どもを尊重するとは、子どものいいなりになることと違います。私は、「期待を伝える」(幼稚園の共同研究者 久保健太さん)、いっしょにやる、話し合うことを大切にかかわります。それから、最初からやってはダメと禁止する(命の危険以外)のではなく、自分なりのやり方、やった結果について受けとめ、行動することも大切にしています。
子どもの権利条約では、「子どもの最善の利益をはかることが第一義的に考慮されなければならない」(教育学・教育思想史 東大名誉教授 堀尾輝久さん)と学んでいます。「子どもを尊重するべきか」は、「子どもの最善の利益」に叶うかどうかで判断します。「子どもの最善の利益」は、「子どもの興味、関心」を意味し、「子どもは、それぞれに、それなりに、自分の興味・関心をもち、何が自分の利益にかなっているかの判断をなしうる存在」として捉えます。子ども自身の判断を尊重する、小さいうちから「好き嫌いをはっきりと身振り態度で、そしてことばで表現できる子どもに育て」、「自分で判断できる自己を育てる」ことを大切にします。
2月26日、しぜんひろばで幼稚園の人たちと過ごしました
2000年、元校園長の宮原洋一先生が学校改革に向けて、「これからの桐朋小学校の教育の極めて重要なかぎは、子どもの意見表明権をどう教育活動において受け止め、反映させていくのかということである。それは、また、子どもの意見を活かしていくということは、子どもが試行錯誤して、多くの失敗のなかから学ぶということを受け止める共通の認識を私たちが持つということでもある。」/「そして、もう一つのかぎは、一人ひとりの子どものありようを徹底して尊重するということだろう。子どものさまざまな姿を、まずは受容的にとらえることから私たちの教育活動を出発させたい。つまり、それは、私たちの教育活動を一人ひとりの子どもの『今』から出発させるという覚悟でもある。」と述べています。そのような学校を実現させたいと話し合い、2004年から学校改革をすすめました。
(4)情報化社会~デジタルツールとの関わり方~ → 生まれた時から当たり前のようにある、スマホなど今や避けられないものとの付き合い方
1月、桐朋中学校、桐朋女子中学校、桐朋学園小学校、桐朋小学校の教員が集まり、「デジタルツールとの関わり方」と指導について話し合いました。内容として、「スマホ依存・ネット依存の問題」「不適切なサイトの閲覧」「ゲームへの課金」「SNS上での不適切な使い方。たとえばLINEで特定の人物を揶揄するような書き込み」「保護者の方どうしのSNSの使い方。得られた情報は慎重に吟味を」などでした。
「情報化社会」は、効率性や利便性、即効性を求める社会のなかで、「私たちの注意はどんどん短い間隔に切り刻まれており、それはおそらく物事を深く考えるには良くないこと」、「即時性と容易さと効率を良しとする文化においては、批判的思考のあらゆる要素を発達させるには多大な時間と努力が必要なせいで、そのような思考は四面楚歌の存在になってきています。」(認知神経科学、発達心理学 メアリアン・ウルフ)などの課題を考えます。
公立小学校では、GIGAスクール構想、一人一台端末が導入されています。4月からの新教科書(今回は部分改訂)では、各教科にQRコードがつき、「できたつもり」「調べなくても」とならないか、「においや肌ざわりの大切さ」などはどうか、慎重に検討しなくてはなりません。また情報が「それが本当に正しいものか」についてもです。「個別最適化」ということも言われますが、園学校では協同での学び、「手伝ってあげる、押さえてあげる」「教えてあげる」「手伝ってとお願いする」などのかかわりも大切にしています。
2019年、藤井輝明さんの授業。「触ってごらん、ぼくの顔」より