ともに考え合う平和教育➁ [Ⅱ-384]
コラム383からの続きです。
多方面からの学び
【中村】教科書や日本の児童書を読むと、被害のことはいっぱい書いてあるけれど、加害はほとんど触れられていないんですね。桐朋小では、大久野島の毒ガス製造や中国での使用、戦後秘密裡に毒ガス製造し中国に遺棄、2000年代に被害をもたらすなど、課題の事実も学びます。2度とこうしたことを起こさないように願って。特にアジア太平洋戦争の歴史を学ぶときは、いろいろな立場から物事を見ていくことができるように意識しています。
【編集】ニュースで死傷者何名、負傷者何名みたいに「数字」が伝えられますよね。一人ひとりにお父さんお母さんがいて、愛する人がいて愛されていたのを想像できないと、ただの数字になってしまう。戦争の報道を見ていてそれが怖いです。
【中村】数量で被害を捉えること、個々の命において被害を捉えることを大切に考えます。ガザ空爆で両親と妻娘を殺されたアブ・ムハンマドさんの記事に心が震えました。娘さんはガザの電気不足を解決するため、工学を学ぶのが夢だった。残された赤ちゃんのミルクさえなくてもう駄目だと思うが、この子と息子を育てるため強くありたい、爆撃や殺戮を恐れる必要なく生きたいと願う内容でした。一人ひとりをできる限り捉え、かけがえのない命を大切にしていきたいです。
【編集】報道だと映画のシーンのような、現実感がなく流れてしまう時がありますが、日常のこととつなげられたら、そうならないかもしれないですね。
【編集】記事になっているうちはまだ良くて、無関心なるのが恐ろしいです。時間が経つにつれ、忘れられてしまう。
【中村】修学旅行では、子どもたちが爆心地そばにあったお墓やお地蔵さんなどを触ってみて、爆風や熱線のすさまじさを感じます。現地に行って、75年以上前の出来事を実感し、想像します。また、平和資料館で涙を流している人がいたり、じっと立ち止まってみている人たちがいるっていうことが平和への希望で、子どもたちもそこへ来たたくさんの人と出会うこと、そこでいっしょに感じることは、すごく大きな経験となり、記憶に刻まれると思っています。
【近藤】広島修学旅行は、とてもいい内容だと思います。広島や大久野島で大切な課題を学び、重い気持ちにもなりますが、宮島に行ったり、アクティビティーを楽しめる時間もあります。
【編集】行く前は「怖い」「嫌だ」って思ってしまうと学びが止まるのではと、少し心配だったんです。でも学びとアクティビティの時間があり、ホテルで夜お友達とおしゃべりをしてとても楽しかった、また広島に行きたいと言っています。よし勉強するぞ! と構えるのではなく、日常の中で考えるのは大事ですね。
【編集】お友達と一緒に学んでるっていうのも、大きいですよね。
【近藤】発達段階や感じ方は人それぞれなので、原爆の映像や写真など、無理強いしてみせることはしていないのです。原爆のお話をする方も、「今からちょっと怖い映像を出すけれども、下を向いていてもいいよ」と事前に言ってくださいます。
これからの課題
【中村】子ともたちに証言をしてくださった方たちも90代のご高齢となり、今後被爆証言をどう学ぶのか大きな課題です。
【近藤】保護者に向けた修学旅行の報告会で、「広島のお話を聞いた僕たちが、今度は語り部にならなければならない」と言った子がいました。聞いた保護者からは、「この子どもたちが大人なっていくというのは心強い」という感想がありました。ただ、世界や日本の現状は厳しい時代になってきていると思います。SMSなどで情報が氾濫している中、何が本当のことか見極める力を育てていかなければなりません。
【中村】目の前の子どもたちがこれから社会出て行く時にこんな社会や世界にしたい、という願いを持って、大人が現在を生きなかったら絶対にいけないと思う。やはり、戦争はいけない、するのはおかしいと声を上げていくべきだと思う。ガザ地区で多くの命が奪われている。イスラエルの大規模攻撃は国際法に違反です。ロシアのウクライナへの侵略は、国家主権の尊重、他国の領土の尊重という国際ルールが守られていません。戦争止められず、大人に力がなくて申し訳なく思う。でも諦めないで、自分ができることを考えて行動したい。それをできるだけ具体的に子どもたちに伝え、話し合いたいと思っています。
年長組 園外活動(登戸、多摩川)
最後に
【中村】子どもの権利として「生きる」「育つ」「守られる」「参加する」権利があります。それは、日々が「安心」「自由」に「自信」を持って過ごせる、この時間が楽しい、人と交わることや自然との触れ合いが心地よいということなどを経験しながら培われます。そういう園、学校生活を創っていきたいです。その日常から、平和な世界の実現をすすめたいと思います。