2030年学習指導要領改訂に向けて [Ⅱ‐471]
夏に参加した研究会では、学習指導要領改訂について話題となり、話し合われました。1学期の初等部職員会議では、そのねらいや内容などについて理解を深めていくことを課題にしました。
また、私たち教職員が学び合うとともに、保護者と学び、考え合う機会を持ちたいと思います。たとえば、6月に国会でデジタル教科書を本格的に導入するための法改正がありました。日本の教育は、デジタルを推進する動きが見られます。一方、世界を見わたすと、デジタルからアナログへ、紙の教科書の使用の動きが見られます。なぜ異なる動きになっているのか、そもそも子どもの発達にとってどうなのかなど、保護者とも学び考え合っていきたいと思います。
私たちは、「親と教師、親と親は、子どもの『今』と『未来』のために結び合います」(9の柱の1つ)を大切にしています。
9月1日の朝
1、学習指導要領の改定日程
文部科学省(以下、文科省)は、学習指導要領等の改訂に関するスケジュールを示しています。
・幼稚園 2027年度周知、2028年度より全面実施
・小学校 2027~29年度周知・移行期間、2030年度より全面実施
・中学校 2027~30年度周知・移行期間、2031年度より全面実施
ねらいと内容、実験校等を活用した先進的取組の推進などを理解し、検討する課題があります。
2、2030年、デジタル教科書
改訂の特色の1つに、「デジタル学習基盤を前提とした学びの在り方」(第二章)がありますが、その内容や、その内容と結びつく教科書の採択についても検討していきます。
2026年6月、国会でデジタル教科書を本格的に導入するための法改正があり、デジタル教科書が紙と同等の教科書として認められることになりました。紙のみ、デジタルのみ、紙とデジタルの中から、採択権者(私学では、私たち)が教科ごとに選択します。改正後、松本文科大臣は「国語・社会・道徳と小4以下の全科でフルデジタルは認めない」と発言されていました。
文科省は、2026年秋、新教科書の制作・採択の判断基準などを策定する予定ですすめています。文科大臣のいう「国語・社会・道徳と小4以下の全科でフルデジタルは認めない」が、どのようになるのかも捉えていきます。
9月1日、朝の教室で
3、日本、世界では
2019年、GIGAスクール構想が打ち出され、公立学校では児童生徒はタブレットを一人一台持ちます。「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育環境を実現」し、「教師・児童生徒の力を最大限引き出す」ねらいと内容が示され、実践をすすめています。
それは、動画などを活用した新たな教材の提供、情報活用能力の向上、特別なニーズをもつ子どもへの学習機会の提供など利点があります。
私たちは、どのような学びが大切にされ、どうタブレットが使われるのか。子どもの成長、発達にどのように結びついていくのか。脳や身体への影響はどうなのか。子どもの成長、発達として、児童期に実際に事物に触れ、五感を働かせ、感動を得て成長するなど、人やモノとのかかわりを大切にしてきたこととどう結びつくのかなどを学び、研究と実践を重ねています。
世界に目を向けると、例えば、国をあげて教育の超デジタル化を推進してきたスウェーデンが、アナログへ転換するなど、「デジタルツールが児童・生徒の学習を向上させるのではなく、むしろ妨げるという明らかな科学的根拠がある」ということなども捉えてきました。そのした動きをみると、
<スウェーデン> 2023年、それまでの「デジタル化推進」から、政府が「学習教材」として紙の教科書を推奨。
<ノルウェー> 2023年、首相がデジタル化の見直しを表明。「生徒が十分な読み書き能力と計算能力を身につけられるよう」紙の教科書に。
<デンマーク> デジタルテストから紙とペンの試験に転換。
<フィンランド> 2006年以降、学習成果が低下傾向。特に読み書き・計算の低下に対策が必要。紙の教科書に戻す。
<ニュージーランド> 子どもたちの読み書き計算能力の低下。政府は、「手書きだけが脳の正書法マッピング回路を活性化し、強化。手書きの重要性を教師に明確に伝える必要がある」と、カリキュラム改正。
<アメリカ> 国内の学力調査で学力低下が顕著に。2024年の読解力は過去最低。読み書き教育を根本的に改革。
<シンガポール> デジタルとアナログを融合させたアプローチ。2021年から中学校に1人1台端末を導入したが、小学校には導入せず。
<韓国> デジタル教科書の全面導入を撤回。保護者の81%が「読み書き能力や集中力に悪影響」と捉える。
このように、世界ではデジタルからアナログへ、紙の教科書への移行が進むことが見られます。今後、その理由などをさらに学びたいと考えます。また、日本ではなぜデジタル化へと進むのかを改めて考えたいです。
9月1日、始業式。下の2枚の写真も。
4、酒井邦嘉氏「デジタル教科書時代への警鐘」
夏に読んだ本の中で、言語脳科学者・東大教授の酒井氏『AI脳クライシス』(集英社インターナショナル)があります。酒井氏は、「紙の本による読書の必要性」、「AI脳クライシス」などを書かれ、「教育効果が保証されているのは、「紙の教科書」」とも述べていました。以下、『AI脳クライシス』より。
・「紙の本ではぺージごとの文字の位置も常に一定です。何ページの何行目といった具合に、それぞれの文字について空間的な手がかりがあり、その結果、読み飛ばしが起こりにくくなります。注意を向ける範囲を、ちょうどサーチライトで照らすように、確実に移動していくことができて、それが本を読む際に生理的なリズムを作ります」142ページ
・「紙の本は「読み書き」や「記銘」などの学習活動においても、デジタル機器よりはるかに優れています。紙の利点として、たとえば「先ほど読んでいたのは、右ページの上の辺り」とか、「見開きの図の下」といった実体としての手がかりが豊富です。/学習者は、何がどこにどのように書かれていたのか、という空間的な手がかりも利用して内容を記憶していきます。また、字を書く際にも、ノートのどの辺に書いたのか、という視覚情報が記憶の定着を促すことも明らかになっています」168~169ページ
・「デジタル教科書のリンクはネット検索とともに情報過多となり、自分で考える前に調べるようになります。しかも端末で完結しがちなので、紙のノートを使わなくなり、「書き写して覚える」こと、メモを取る能力、書字の能力にまで影響が及ぶことが予想されます」170ページ
・「書字のレベルでは、「かな漢字変換」に頼ることで簡単な漢字すら書けなくなり、語彙選択のレベルでは「予測変換」に頼って同じ表現や定型文を繰り返すことになります。さらに要点把握のレベルでは、キーボードの高速入力が災いして、要点を絞ることなく受動的にすべてをタイプするようになってしまいます。デジタル機器では雑に書いた後の編集機能に頼る分、文脈を正しく想定できないと構成がおろそかになってしまいます」170ページ
・「教育において、「短時間で覚えられればいい」などという価値観はゼロです。むしろ、教育とは繰り返しやって、それでも忘れてしまい、また繰り返しやってみる、そういう非効率なことの積み重ねです。効率という価値観を教育に持ち込むことは、自ら考えること、判断することの放棄に等しいのです」172ページ
5、幼児期、児童期の子どもの発達を考える視点から
生まれた時からデジタルに囲まれている子どもたちをどのように育てていったらよいでしょうか。幼児期、児童期の子どもの発達を学び、考え合っていきたいです。
●「人間の子どもには、「自分は生きていてもいいんだ」という身体的な共鳴が必要です」山極壽一氏。
●乳幼児期は、「安心と挑戦の循環」が育ちの鍵と学んできました。安定したアタッチメント(愛着)のもと、遊びと体験を通して外の世界への挑戦を重ねていきます。
●生涯にわたる健康の基盤づくりとして、乳幼児期に身体を動かす習慣を。「1日合計180分以上身体を動かしましょう」などの提言(WHO)。
●児童期に、五感を使って体験し、心を動かすこと。そうした生活、学びを大切にしていくこと。また、深く思考することも大切にしたいと考えます。
●実際の人間同士の対話を大切にしたい。「相談ごとはChat GPT」という子(や大人)。
●「動くこと」「群れること」の重要性。現実空間で、身体を通した育ちと学びを。「身体性」の大事さ。「からだを使って発達するチャンスを奪う」ことにならないよう。
●児童に、基礎運動能力の低下が見られるということも。スウェーデン教師協会(2024年)「多くの生徒がハサミを使えない」と、ハサミを使えない生徒、結び目を作れない、針に糸を通せないことが取り上げられている。
「子どもたちの細かい運動能力は加速度的に低下」(スウェーデン体操連盟・スポーツ教師協会)。「前回り、後ろ向きに歩く、片足でバランスをとるなどの簡単な運動をするのが難しくなっている」などもあり、目の前の子どもたち、日本の子どもたちはどうか。
●特別のニーズがある子ども。きめ細やかな対応をすること(個別にデジタル教科書配付など)。
●デジタルをすすめていく中で、自分の頭で考えなくなり、あらゆる教科や分野で学力と思考力が低下するのではないかという心配の声。
●「デジタル・デトックス」を設けること。コロナ後、視力低下が進む(東京私立初等学校協会の調査)。
●「太陽の光を浴びている時間、すなわち『グリーンタイム』が、心身の健康を増進する」こと。
