2022.12.9

学園で戦争と平和、人権を学び、考え合う時間をつくりたい➁[Ⅱー323]

コラム№321の続きです。321では、[●桐朋小学校の取り組み ―人やモノから。現地で学ぶ― <被害を知り、平和を願う><加害に目を向け、考え合う>]を書きました。ここでは、[●教育と戦争の深い関わり ●日常生活に即しながら、人権の確立、平和を]を書いてみます。

 幼年長 こまを回したい! 気持ちに火がついています

●教育と戦争の深い関わり

教育が戦争をすすめた事実を捉えて、私たち自身の教育を問い続けていきたい。

6年生平和学習で、東京大空襲の体験を話してくれた竹内静代さんが、戦争中の教育を語った。朝礼で宮城遥拝(全校児童が皇居の方角に向き最敬礼)、玄関横の奉安殿(御真影、教育勅語が仕舞ってある)へ最敬礼、軍艦マーチや君が代行進曲などに合わせての行進訓練、毎年の書き初めは天皇を敬い称えるものなどだった。

教育勅語は「戦争が起こったりしたら、勇気を持ち、公のために奉仕してください。/永遠に続く天皇家を護るために戦争に行ってください。それが正義であり『人としての正しい道』なんです」(教育勅語を高橋源一郎さんが現代語訳)と述べ、子どもたちは「毎日校長先生から教室を戦場と思え、鉛筆や筆を銃剣と思えと僕達をはげまされ」、「皇運を扶翼し奉るために死すべき民となるため今日一日努力します」などと毎朝会で唱和させられた。授業では他国を占領し、物資を獲得していく授業「『大東亜共栄圏』の地図」作りなどが行われた。1年生が「日本ノ人ハ シナヲ タクサンコロシタソウデスネ」「シナハ ボクモ 大キク ナッタラ センソウニイッテ シナヘイヲ キリコロシテ 来マス」と表現している(村山士郎『子どもたちが綴った戦争体験』全五巻、新日本出版社参照)。

こうした教育が日々行われ、国全体では「学徒戦時動員体制確立要綱」による学生・生徒の勤労動員強化、「決戦教育措置要綱」により小学校を除く全ての学校の授業停止、「学徒出陣」など、教育を通して戦争に突き進んでいった重たい事実がある。

今回、ロシアのウクライナ侵略の背景にも教育が関わる。ロシアの教育の変遷、プーチン大統領の教育改革では、歴史の教科書検定の厳格化、統一的な歴史観の策定、全露青少年運動「ユナルミヤ」の展開など、軍事愛国主義教育がすすめられてきた。日本とロシアで、教育が戦争に深い関わりを持つことを学び、私たちはどのような教育をすすめていくのか考えていかなければならないと思う。(日本教育学会 国際交流委員会編『ウクライナ危機から考える「戦争」と「教育」』教育開発研究所参照)

 6年生 広島修学旅行報告会、平和学習展示(ポスター、読書)

●日常生活に即しながら、人権の確立、平和を

桐朋学園は、1947年制定教育基本法の精神を教育理念にもつ。この教育基本法の制定に取り組まれたのが初代理事長、校長の務台理作であった。務台は、教育目標として掲げられるべき基本的条件を日本国憲法および教育基本法の内容を踏まえて、「基本的人権の確立」「日本民族の独立」「世界人類の平和」とした。そして「日常生活に即しそれがいくらかでも良くなるという形で進めていく」ことを願った。(『務台理作著作集第7巻 倫理と教育』こぶし書房参照)

今日の状況を踏まえ、あらためて桐朋学園が「世界人類の平和」を教育目標として掲げ、日々の授業や活動において「異なる存在を受容する寛容」「対話を重ね自らを省みる柔軟性」「氾濫する情報を選り分ける判断力」などを培い、「意見の相違を非暴力で解決する」「批判的思考を持ち、表現できる」などを教育実践で大切にしていきたい。

そして、次の時代の子どもたちの命がすこやかに生きて暮らしていけるような世界、社会を、教育を通してつくり出したい。そのことが私たちに体験を語ってくれた被爆者の久保浦さんたち、毒ガス資料館元館長村上初一さん、桐朋小で広島修学旅行をはじめた平田明生さんたち先輩教員から託された平和への願いであり、そのバトンを引き継いで、未来の人たちへ繋いでいくものである。

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